b10014「ドーン」 個人と分人をどのように両立させればよいのか ☆☆☆
僕と同年代の平野啓一郎さんの新作「ドーン」を読んだ。
初期の頃の作品もそれなりに楽しく読んでいたのだけど、この作品では平野さんの力の充実度が如実にあらわれていて、感慨深くもあった。作品も素晴らしい。
平野さんの初期の作品が自分の書きたいものがあって、それをどうだというように読者に提示していたところがあったのだけど、この作品はかなり受け手を意識している。
語りたい主題をエンターテイメント的な作品におとしこんで、ストーリーの面白さでも読ませてしまう。
設定が、2030年年代で宇宙飛行士で火星と地球の間の宇宙船や、アメリカの大統領選の周辺、東アフリカと、まったく日本人にとっては現実の外を描いているのだけど、これが足が地についていてリアルなところが素晴らしい。エンターテイメントとして大きな展開を見せる中で将来の課題を主題として織り込むという村上龍的な小説を描いているのだけど、設定に甘さがないところには驚きます。大統領選で共和党と民主党が争う政策の違い、小さな政府・大きな政府といった経済面や、多国籍企業のようなビジネスの関わり、宇宙の資源開拓闘争と科学技術の進歩も、なるほどと思わせるところがあります。
平野さんは文学頭でっかちでなく、世界を広く見渡せている点で本当に頭がいいですね。

そうやって様々な背景がきちんと描かれている中で、主題は個人individualと分人dividualであった。
社会が複雑になる中で、人は相手や局面にあわせて、分人を使い分けていくことになるのだけど、この小説ではそれを3年間の狭い宇宙船内を含めた火星生活という極限状態で試すことで、その場所を弁えた分人だけで対応するのが困難となり、その表面の底を流れる個人をさらさずには生きていけなくなるということを示している。
様々な分人を使い分けながら、それの集積である個人としてどのようにこれからの時代を生きていくべきなのか?という問いは、20世紀までのように世界の価値観がひとつであって、職場でも家庭でも社会活動においても同じ顔をしていればよい時代での(私小説が扱ってきたような)個人的な課題を超えている点で、複雑きわまりない。
しかし、最終的にはそれは個人に帰結していく。ただし、すべての分人を放り出すわけでなくそれらを束ねた上での個人を大事にしていくことが必要だというのが結論だろうか。

この小説ではそれ以外のところにもいろいろな問題を提議している。
・国と企業のありかた。
・科学技術の進歩による疑似仮想的な人間的役割をするものの予見
・悪と恥を隠すという行為
・小説がwikinovelとして、共同作業的小説が生まれてくるということ
・世界がアメリカ軸から多軸化していく中での日本や日本人の役割
・・・・
とちょっと考えてみただけでも、ひとつひとつを主題に取り上げても十分面白みがあるように感じた。
新しい時代の夜明け「ドーン:dawn」を予感させる小説として、なんとも力作を書いたものです。

| 読書(小説)| 11:49 | comments(2) | trackbacks(0) |
Comment
とても面白そうな本ですね。
でも私に読んで理解できるか心もとないです。(読んでみたいけど)

平野さんの本は以前2冊トライして挫折しています(^^;。

今日から春樹さんの1Q84F匹濟呂瓩泙靴植
Posted by: ruru |at: 2010/04/18 11:54 PM


「ドーン」は以前の小難しい感じの本よりかはエンターテイメント小説に仕上がっていて読みやすいと思います。(ただ、長いですが)
僕も1Q84にそろそろ入ろうと思います。
仕事が繁忙期になってしまっているので、一週間で読めるか
心許ないです。
Posted by: パキラ☆ |at: 2010/04/19 12:09 AM










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