b10025「俺俺」 自己実現を図ることが困難な現代をどう生きるか ☆☆☆
星野智幸さんの新作の評判がよいので、早速読んでみました。
小説では、社会に貢献できないがために、無目的、無気力に陥っていく大衆について、これを「俺」化という増殖する病として設計している。
人の意識の軽薄化を病として蔓延させることによって警鐘を鳴らすのは、ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」にも似ているように思えた。

小説において、「俺」化した人たちは、自分が優位に立つために、弱みを見せたものを叩き、抹殺しようとする。
それによって、自分の価値を見出そうとする。彼らは社会において無価値になることを恐れている。
さらに、これが始末に負えないのは、社会に貢献しようとしている人、目的をもっている人、気力をもっている人を排除しようという方向に進むことだ。

「俺」化は、若者の雇用問題が深刻化している現代の中で既に起きている問題だ。若者は自己実現することが非常に難しくなっている。自分の価値観を日々の生活で見出すことが困難になっている。親は自分の世代で可能であったような、安定した職を得て、成長できる夢を見続けていくことを、子供にも求めているが、そんなものは既になくなってしまっている。親は幻想を追うがゆえに、若者世代の現実を理解することができない。

星野さんはそうした状況における解決策として、共同生活体としてひとりひとりが役割を担って、生産を行っていく生活に可能性を見出しているように思う。
ただ消費を続ける生活では、成長ができた時代にはとりあえずは社会に組み込まれて自己実現ができている感覚(錯覚)を得られるが、成長が鈍化した時代においては、成果がわかりにくく、社会における役割が得にくい。
そのため、消費の根元にあったはずの生産をもう一度手元に戻すことが大事なのではないかと改めて思った。
現代のように分業によって末端がパーツに分かれてしまうと、その一つ一つのパーツはこの小説の「俺」のように、取り換え可能になってしまって、本来あったはずの目的が把握できなくなってしまう。
だから、多少非効率でも、人が属すユニットを小さくして、その中で貢献できていることが実感できるレベルに戻したほうがよいのかもしれない。


| 読書(小説)| 22:30 | comments(0) | trackbacks(0) |
Comment








Trackback

Entry: main  << >>

Category

Search

Entry

Comment

Archives

Link

Feed

Others

無料ブログ作成サービス JUGEM

Mobile

qrcode