m10009「オーケストラ!」 仲間たちの心がひとつになるとき ★★★
 

六本木でラデュ・ミヘイレアニュの「オーケストラ!」。
ソ連のブレジネフ政権下でオーケストラを解散させられた演奏家たちが、再び、結集して、パリで公演するところを描いた。
30年が経過して、様々な仕事に就く楽器演奏家たちを集めていくのは、キューバ音楽再生の「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」とそっくりだ。だけど、ブエナビスタが単純にキューバ音楽のみをテーマにしていたのに対し、この映画では「北京ヴァイオリン」的な味付けがある。エンディングの感極まった、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲はほんとうに素晴らしい。ここでは、オーケストラは人々の心を一つにしていくものを意味していて、それが先に挙げた二つの映画より優れている点のように思う。


| 映画| 20:35 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10008「ウディ・アレンの夢と犯罪」 富と名誉に溺れる人間の悲哀さ ★★★
 

ウディ・アレンのロンドン三部作の最後を飾る作品とくれば、絶対観たいところだったのだけど、前評判が芳しくなくて、見送っていた作品。ようやく飯田橋で観てきた。
完成度が高く、非常に面白い作品に仕上がっていた。

ロンドン三部作で描いていたのは、お金や名誉を追うことの虚しさとそれがわかりながら抑制できない人間の悲哀だろう。
一度、踏み外してしまえば、もう後戻りはできない。それがわかっていながら、お金と名誉の欲に打ち勝つことができない。
ユアン・マグレガーは、若き時代で演じた「シャロウ・グレイブ」もそうだったけれど、スマートそうだけど人間くさいところがあって、こうした悪事に染まっていってしまう役がはまっているように思う。

| 映画| 20:14 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10007「マイレージ、マイライフ」 解雇時代に何も背負い込まない人の優雅さ ★★

吉祥寺でジェイソン・ライトマンの「マイレージ、マイライフ」。

ジョージ・クルーニー演じる主人公ビンカムは、解雇を言い渡す代理役を引き受ける会社で働き、アメリカ各地にある企業を次々と訪問する。
その中でも、自分の役割がもたらす相手の人生の転落に対して、一緒に落ち込んでしまったり、仕事に疑問をもつこともなく、効率的でスタイリッシュな移動をしながら、移動距離であるマイレージが増えていくことを楽しんでいる。

この映画はアメリカの今の世相をよくあらわしている。
長年働いていた会社から突然解雇を言い渡されることが日常としてあり、一方でそれを言い渡すものは全くの他人、委託された社員であるということ。
言い渡される方には痛みがあるが、言い渡す方はルーチンワークの一環であり、そこに痛みなどない。
家族ももたず、独身を貫き、責任をしょいこんだりなどせず、楽しんでいければよいという人生哲学をもつ主人公は、今の世相においては強い。
暗い現実を他人事で通してこの生を謳歌している主人公の行動は、ある意味馬鹿げてもいて、ひとしきり鼻で笑わせるような映画のつくりになっている。

ストーリーが進んでいくと、主人公の会社でも解雇を言い渡す仕組みがシステム化されて、マイレージ生活のライフスタイルがあえなく崩れそうになったり、主人公の妹の結婚を通して家族を再考したりして、進んでいく。
ただ、独りだけよければ済むものではない、アメリカという国を家族主義の絆で協力して盛りたてていかなければならないというメッセージと、一方でそんな簡単なものではないというアンチテーゼも投げている。


| 映画| 19:23 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10006「息もできない」 暴力は親から子に連鎖する ★★★


ヤン・イクチュン監督の第一作の「息もできない」を吉祥寺で観た。

激しい暴力描写ときいていたが、のっけからそれは出てくるのだが、作品全体の骨格となっていて、むしろその問題点を観る者に感じさせる。
この映画の中で、暴力は家族から生まれている。
夫が妻や子供に暴力を振るう家庭がでてくるのだが、それが子供に連鎖していくという状況を描いている。
その連鎖を断ち切るのがいかに難しいことなのかをこの映画は明らかにしている。また、その世界から出ようにも、家族の絆が強すぎて、抜け出せないことを示している。
何らかの傷を追うことで、その傷を塞ぐために、暴力は発作的に、やがて日常的に起きてくるために、それをなくすためには主人公が最後に光明を観たような、信頼と愛のようなものがなければならないのだ。

そうした、暴力の連鎖と信頼や愛の大切さを監督は見事に描き切っている。
途中途中で挿入される街の風景も非常によい印象を与えている。
エンディングで、男が力強い視線の中で見せるやるせなさが、この映画のテーマの難しさを印象づけている。

映画第一作にして、インパクトのある描写とぶれのない主題の扱い方に驚きました。監督が自ら主演してしまうのもすごいですね。


| 映画| 11:05 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10005「ハート・ロッカー」 戦場の緊張感に麻痺化・高揚化するということ ★★★
 

新宿でキャスリン・ビグローの「ハート・ロッカー」。
イラクでの爆弾処理にあたる兵士たちの毎日を追った作品だが、冒頭から緊張した場面の連続で、戦場の恐ろしさや非人間性がスクーリングの向こうからリアルに迫ってくる映画となっている。
この映画のすごいところは、戦場においてどこから敵が出てくるか、爆弾が爆発するかわからないような状況が続くことが日常化していくことを観客自身も追体験してしまえることだ。
兵士のある者はそうした状況に徹底的に嫌悪を示し、ある者は迷うわけで、こうしたことはなんとなく理解できたわけだが、その緊張感がエクスタシー化してそこに生きている意味を見出してしまう者が出てくることまでこの映画では理解できてしまう。

マイケル・チミノの「ディア・ハンター」でも狂気に落ちていく兵士を取り上げていたが、ここでは狂気とまで言い切れないところでおさまっている。
兵士としては英雄ではあるが、人間としてはおかしいという意味合いだ。

戦争による緊張感の常態化と麻痺が、人間性を奪っていくことにこの映画は焦点をあてていて、それに成功していた。

ジェレミー・レナー演じる軍曹はタフな戦場から妻と子のいる平和な日常に戻れたのにそれを捨てて再び舞い戻ってしまう。初日から命をかけた爆弾処理に向かうのだが、そこで生の高揚を示すようにロック音楽が高鳴り、カメラは防備服のヘルメット越しに彼の充実した表情と自信ありげに胸を張って爆弾に向かっていくところをしっかりと映し出して、エンディングと相成った。
なんともやるせなくはあるが、観客にはそれが理解できてしまっているのだから、どうしようもない。

映画の作り方として非常に上手いと感じたし、アカデミー賞受賞も納得だった。

| 映画| 00:20 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10004「月に囚われた男」 我思う、・・・されど我ありとは言い難し ★★★



恵比寿でダンカン・ジョーンズの「月に囚われた男」。
近未来の月で企業に雇われて鉱石堀りに従事する宇宙飛行士が主人公。
このミッションの大変なところは、一人だけで3年間、月の基地で鉱石堀りに明け暮れなければならず、人とコミュニケーションを図ることが全くできないこと。
さらに、地球との直接コミュニケーションまでもが機器が故障してできないという設定。
妻とはビデオレターでやりとりするしかない。
孤独に苦しむ話なのかと思っていたら、そうではなかった。もっと深かった。

この映画は、自我を問う映画になっている。
デカルトは、我思う故に我あり、として自我を確認した。
しかし、この映画は我が思っても我ありと断定しきれないところに問題がある。
一体、自分は何者なのか、何のために生きているのか、もし自分のよりどころである記憶が自分のものでなければ自分の感情は一体なんなのか。
こんなことに主人公は苦しむ。

登場人物は極めて少ない。そして設定は宇宙基地とその周辺のみ、ということで処女作で予算は極めて少ない中で、この監督はそれを逆手に利用して、SF映画なのにシンプルにしてしまっている。余計なものが出てこない分、主題は明確になってくる。音楽もまたよしということで、次回作も楽しみ。

| 映画| 20:07 | comments(2) | trackbacks(0) |

m10003「アイガー北壁」 容赦のない北壁の厳しさ ★★★


有楽町でフィリップ・シュテルツェルの「アイガー北壁」。
山岳映画だが、ナチスの国家高揚ともリンクしていて、多少社会性をもっているが、基本的には登攀の厳しさを描いた作品に仕上がっている。

自然を相手にした登攀は、予定外のハプニングに対して、どのように対処していくかで生死を分けてしまう。登攀やルートファインディングの技術や装備、体調だけでなく、そこに天候や落石、雪崩などの自然要因も絡んでくることが登山を難しくさせる。
特に、国家の威信をかけているとなればなおさらだ。
登攀が自分と自然との間の闘いでなく、ここに他パーティーとの競争的な要素が入ったことで、主人公ドイツ人登山家二人の運命は変わっていく。

なんとも圧倒される映画だった。
僕には到底真似できないな。


| 映画| 22:02 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10002「パレード」 原作のよさを活かしきれていないのでは? ★★



池袋で行定勲の「パレード」を観る。

この映画の原作の吉田修一さんの「パレード」は、7年前に読んでいる。僕が小説家を目指していたころのことだ。
http://pakira.net/diary/diary2003feb.html#20030201

僕は映画を見終えた後、監督が脚色しすぎて、小説の主題を変えてしまったのではないかとも思ったけれど、読後録を読んだら、案外、今日自分が映画を観ていて感じたことと大差がないようにも思えた。
もしかしたら、この7年間で僕の記憶があやふやになった可能性、受け手である僕の感覚が微妙に変わってしまった可能性もあるように思う。
なので、主題が変わってしまっていると言いきるのはフェアではない。(少なくとも僕が読み返さなくては。)
ただ、そうは言ってみても、やはり原作のよさが浮ついたところでかき消されてしまって、出てこなくなったようにも思う。少し娯楽作を意識しすぎたきらいがあるようにも思う。

7年前、この小説を読んで僕は大きく動揺した。表層だけで深層に至らない人間関係に対して、どうしたらよいのかそれを深く考えざるをえなかった。

この映画では、生活の在り方が軽すぎて、なんともやるせない。
人気若手俳優を配しているが、どうも地に足がつかない感じがあった。

藤原竜也の存在感はよかったですね。あの低いトーンの声はいいですね。
ただ、配役としては裏がない感じの俳優のほうが本当はよかったんじゃないかな。
| 映画| 23:13 | comments(0) | trackbacks(0) |

m10001「インビクタス」 正しい信念とリーダーシップ、ゲームの高揚感 ★★★


吉祥寺でクリント・イーストウッドの「インビクタス」を観てきた。
イーストウッド監督ということを、今の今まで知らなかったりして、今頃になって映画の出来のよさの理由がわかったように思った。

南アフリカの大統領に就いたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)がラグビーのW杯自国開催でチームを支援することで、ラグビーを通して白人と黒人が心を一つにさせていく過程を描いている。
この映画の主題は、人種の壁のない世界の大切さとリーダーシップであるように思う。
マンデラとラグビーのチームキャプテン・ピエナール(マット・デイモン)のリーダーシップの強さが、国やチームの心をひとつにしていくことが見て取れる。また、リーダーがもつ苦悩(自分自身の家族のこと等)も垣間見ることができる。

映画としては、ラグビーチームの試合の臨場感と人々の熱い高揚感が見事に描かれている。映画の観客も、スタジアムの観客と同様に、南アフリカのチームを応援せずにはいられなくなる。スポーツの素晴らしさみたいなものもこの映画から感じ取れる。
終った後も、興奮さめやらぬという感じで血潮が高ぶったまま、スタジアムならぬ映画館を後にしたのだった。


| 映画| 22:39 | comments(0) | trackbacks(0) |

m09019「母なる証明」 緊張感ある映像の中で描かれる人の二面性 ★★


ポン・ジュノの「母なる証明」を新宿で観てきた。
最近は新宿で映画を観るときは、駅と直結している映画館でしか観ていないわけで、その度にほとんど地上にも出ず、なんだか不思議な感じだ。

ポン・ジュノの映画はグムエルを敬遠したわけだが、その前の「殺人の追憶」が刑事物としてはなかなかおもしろかった覚えがあった。
今回の作品は、子と母親の関係において、子ではなく母を主人公にもってきた設定が面白い。それでいて、ありきたりなストーリーで終らせていない。
この映画で語られるのは人間の二面性だ。無垢な子を演じたウォンビンの役どころでさえ、あるところで顔と目をリアルに二面相のように分けて、無垢の裏側にある残酷さを暴きだしている。
そして、情愛あふれる母親の心でさえも、ここでは二面性の対象になってくる。
人の表と裏に、このポン・ジュノという監督は特に強い意識をもっているように思える。それは人間の外面と内面に興味をもつキム・ギドクにも類似してくるものであるため、韓国人にとって命題になってくるものなのかもしれない。
つまり、韓国と北朝鮮という分かれた国家という意識だ。

映像は緊張感がみなぎっている。石、刃物、金具、ゴルフボールと無機物に事欠かない。
それらは僕らの理解を拒むものとして提示されている。
まるで、38度に引かれた国境線のように。

このような緊張感のある映像をとれる日本人監督を僕は知らない。
それは日本人が、国境線という二面性をもたない幸福な国民だからなのかもしれない。
そう考えると、なんとも奥の深い映画である。

無垢さと残酷さ、情愛と非道、罪の意識と忘却、姦淫と清らかさ、知性と暴力、すべてが対比されて迫ってくるとき、韓国の人たちはリアルにそれらを悟り、自分に問いかけざるをえないのだろう。

| 映画| 00:18 | comments(0) | trackbacks(0) |
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